11 類似・関連用語との関係

(1)学校教育との関係

 「学校」という言葉自体は多義的であるが、法律用語としては「学校」は教育基本法に定める「法律に定める学校」とそれ以外の学校とに区別することができる。学校教育法という場合の「学校教育」という用語も「法律に定める学校」についての教育目的・目標、教育課程、教職員の種類と職務等の総称であって「学校教育」という特定の教育を想定したものではない。なお、学校教育法では小学校は「初等普通教育」、中学校は「中等普通教育」、高等学校は「高等普通教育及び専門教育」をそれぞれ目的としている。中等教育学校も普通教育機関である。幼稚園や特別支援学校の教育目的は普通教育とは明記されていないが普通教育に準ずる教育機関として位置づけられている。高等専門学校の前期3年は高等学校段階に対応するものであるからその部分に関しては普通教育機関ということもできるが、法律上は全体として普通教育を目的とする機関とは位置づけられていない。大学、専修学校、各種学校も「学校」であるが、普通教育を目的とする教育機関ではない。なお、民族学校については普通教育を行う学校についても「各種学校」扱いとされている。

2)義務教育との関係

 わが国において戦前、例えば小学校令上「国民教育」を受けることが義務づけられ、その教育を「義務教育」とされた。中学校の教育は「高等普通教育」でありながら「義務教育」ではなかった。 

 戦後、戦前的な意味での義務教育観は否定され、教育権を有する国民が同時に子どもたちに対して普通教育を受けさせる義務を負うと定められた。憲法上、「義務教育は、これを無償とする」として義務教育という語句が用いられているが、その場合の「義務教育」の内容は国民が子どもたちに受けさせる義務を負っているところの普通教育のことである。

 一方、戦後教育政策において、「義務教育」という特定の教育目的があるかのような政策がとられ、とくに200510月の中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育を創造する」において「義務教育の目的」が「一人一人の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二点」であるとされた。戦前にあってこのような「二点」を教育目的とする教育を「国民教育」とするという議論の経過があったが、もはや義務教育も普通教育もそのような意味では「国民教育」に変質させられていると言えよう。

 200612月に改正された教育基本法においては「義務教育として行われる普通教育」という用語を新たに設定したが、その「目的」は法律上中央教育審議会答申に言う義務教育の目的と一致している。「義務教育として行われる普通教育」とは戦前的な意味での「国民教育」のことであり、「義務教育」という用語も事実上戦前的な意味での義務教育と同じである。

3)専門教育・職業教育との関係

 1947年に発行された『教育基本法の解説』によれば「普通教育は、特定の技術、学芸を習得させて特定の業務の遂行に役立たせることを目標とする特殊教育、専門教育ないしは職業教育と区別される」と述べており、ここを根拠に普通教育は専門教育や職業教育に対置される概念であると理解されている。

 しかしながら、高等学校の目的は、憲法上、普通教育であるが、学校教育法ではその教育目標は①「高等普通教育及び専門教育を施すこと」とされており、さらに②教育目標の一項では「社会において果たさなければならない使命の自覚に基き、個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な技能に習熟させること」と定めている。この場合、①と②の関係をどのように考えるかが問題となる。現実の教育制度・教育政策では①の規定を根拠に高校再編政策が進められ、後期中等教育の多様化政策、特色を有する高校教育改革が推し進められている。しかし、②の見地を重視する見地からは、すべての高校は基本的には高等普通教育機関であり、内部に普通教育の理念と結びついたより充実した職業的教養の習得を位置づけるべきであるとする見解も表明されている。ここに今日、高等学校段階における普通教育をめぐる鋭い問題が提起されている。

 一方、中学校についても学校教育法上その教育目標には「社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと」が掲げられている。この目標は中学校段階の普通教育の目的として位置づけられているのであって、そのような教育がいっそう充実されることが普通教育本来の理念から言っても期待されている。

 普通教育は子どもたちの発達段階の特質に応じた教育内容を有するものである。職業教育等の問題を普通教育の見地からどのように制度設計するかはきわめて重要な課題となっている。

4)特殊教育・特別支援教育との関係

 普通教育の普通という言葉から推して普通教育は特殊教育と対置されるという通念上の理解も見られるが、理念上も法令上も普通教育と特殊教育あるいは特別支援教育とは対置関係にあるわけではない。

 理念的には、普通教育はあくまでも人間を人間として育成する教育であって、身体的知的障害があっても人間として成育することは子どもの権利であり、それを保障することは普通教育の使命である。学校教育法上、「特別支援教育」とは特別支援学校において行われる教育であって、「幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施す」とされている。この場合の「準ずる教育」とは普通教育にほかならないのであって、特別支援教育は普通教育としていっそう発展させていくべきものである。

5)一般教育・一般教養・共通教育との関係

 言葉の類似性などから普通教育と一般教育や一般教養、共通教育との混同も見られる。

 西欧における自由学芸に普通教育の源流を見る解釈から一般教養や高等教育における一般教育、あるいはアメリカの大学で見られるリベラルアーツを普通教育に含めるという見解もある。また、日本の戦前において、普通学や「高等普通教育」という概念がむしろ高等教育・専門教育の対概念として存在していたという事実などから「大学における普通教育」という言い方も今日見られる。

 また、人間としての普遍的な性質とは別に、教養教育や技能訓練等において共通に習得されるべき教育内容に対して「共通教育」もしくは「共通基礎教育」という場合があるが、これらの語句はいずれも「人間を人間として育成する」普通教育とは区別される。

(6)生涯学習・生涯教育と普通教育

 1965年のユネスコ成人教育推進国際委員会においてポール・ラングランが提唱した生涯教育論は近代的な教育諸制度が現代社会における急激な社会の進展という挑戦を受け新たな展開を迫られているという状況のもとで、人間性の回復という見地から生涯全般にわたる教育制度の全面的な再構築を提起したものであった。ユネスコ国際成人教育会議は1985年「学習権宣言」を採択し学習権を基本的人権であると明確に宣言している。これらに見る思想は普通教育の理念と基本的には合致するものである。一方、わが国においてとくに臨時教育審議会が提起したいわゆる「生涯学習体系への移行」政策は政府主導の生涯学習政策をすべての国民に生涯にわたって強要するもので、その意味での生涯学習と普通教育とは理念的に相容れないものである。

7)社会教育と普通教育

 図書館、博物館、公民館等での社会教育は普通教育とともに生涯教育の一環を構成するものであるが、この社会教育についても戦前のあり方の反省に基づいて戦後は普通教育の理念と合致する方向が制度化されたが、改正教育基本法のもとで政府主導の社会教育政策が推進され普通教育の理念と相反する方向が強化されてきている。