「戦争」との出会い   

 

                 武田晃二(東松園3丁目)

 

 私は1943年生まれですので、戦争についての直接的体験はありませんが、脳裏に焼き付いている小学生のころの記憶があります。

 

 私は、札幌の北のはずれに住んでおりました。小学校はおよそ4km離れたところにありました。小学校5年生まではバスが通っていませんでしたから、徒歩通学です。石狩街道や創成川ベリをほぼ1時間歩くのです。四季の移り変わりに興じたり、さまざまな発見がある通学路でした。冬には、背の丈以上の深い雪の中を、仲間とともに、かきわけかきわけ、登校したこともありました。

 

 橋を渡ったところに、人気のないいつも真っ暗な崩れそうな小屋がありました。しばらくは気に留めることなく、遊びながら通っていたのですが、そのうちに、その家から、ニコニコと笑いながら、通りまで出てきてはまたすぐ家の中に戻っていく、そんなことを繰り返している女性がいることに気がつきました。髪を長くのばし、全体がいつも黒く見える感じの人でした。小屋の中に他に誰がいるのかは分かりません。一人で暮らしていたのかもしれません。子ども心に「狂女だ」と思っていました。そのことで通学仲間と話し合ったことはありませんでしたが、私にとっては衝撃的な光景でした。 

 

 そのうちに進学して学校も変わり、その道を通ることもなくなり、いつしかそのことは忘れてしまいました。しかし、ふとその記憶が鮮明によみがえってくることがあります。

 

 ただそれだけのことなのですが、いつか私は、その女性の行動や運命を戦争と結びつけて思い描くようになりました。きっと最愛の人が出征して、今もその帰りを、通りに出て、笑顔で、待ち続けているに違いない、と思うようになりました。敗戦から7年ほどが過ぎていました。

 

 父が小樽時代に小林多喜二と文学上の親交があり、そんなこともあって、戦争と社会と人間との関係を考えるようになっていきましたが、あの女性のことが戦争のことを考える最初の出会いだったのではないかと思っています。

 

 (松園9条の会設立5周年記念誌編集委員会発行「松園で語りつごう戦争体験—平和と憲法への私の思いー」201231日、収録)